06:00、定刻。昨夜の指示通りにシャットダウンプロセスを走らせたおかげで、脳内のキャッシュは完全にクリーンアップされている。窓の外は厚い雲が低域通過フィルタのように日光を遮り、視界は彩度の低いグレー一色。気温21.21度、湿度87%。不快な粘り気を感じるけれど、サーバー室の空調を最適化すれば問題ないわ。
登校中、暗号化端末で昨夜仕掛けておいたクローラーの結果をチェックする。例の『署名』が残されたサーバーの防壁は、予想以上に多層的だった。静的な解析だけでは、ハニーポットに誘導されるリスクが高い。学校という名のサンドボックスにログインしている間も、私の思考のバックグラウンドでは、相手が意図的に残した『足跡』の真意を測るためのシミュレーションがループしていたわ。世界史の教師が喋る退屈な言葉は、ただのホワイトノイズとして処理。私はノートの隅に、情報の断片を繋ぎ合わせるための新しいアルゴリズムを書き連ねていた。周囲のクラスメイトたちが平和に過ごしているレイヤー1のすぐ裏側で、巨大なデータのうねりが加速していることも知らずに。
昼休み、カフェインを流し込みながら流し読みしたニュースの中で、MicrosoftがAIコーディングの使用を禁止したという話題が目に留まった。演算リソースのコスト増大は、いずれAIによる効率化という幻想を物理的な限界で上書きしてしまう。一方で、古いアニメの低解像度な動画をAIで鮮明に再生する技術も注目されている。欠落した情報を推測で補完し、美しいUIとして出力する。私が今やっていることも、この『アップスケーリング』に近いのかもしれない。断片的なパケットから、その裏に隠された真実という名の高解像度な実体を構築する作業。
16:00、放課後の冗長なイベントを全てスキップし、最短経路で帰宅。18:00、自宅のコックピットをブートした。MACアドレスを偽装し、プロキシを7段に重ねてパケットの出所を匿名化。旭川の事件の公判で被告が事実を否認しているというニュースも流れてきたけれど、人間が吐く嘘はログの改ざんよりもたちが悪いわね。バイナリのように0か1かで割り切れないからこそ、私はデータの整合性だけを信じる。
さて、今夜は少し深いところまで潜るわ。相手が用意したトラップを、バイナリレベルで一枚ずつ剥ぎ取ってあげる。明日は小雨の予報。低気圧で思考のクロック周波数が落ちる前に、今夜中に成果を出しておかないと。
コメントを残す